30周年記念誌(30th ANNIVERSARY)
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私があと施工アンカーに関わったのは、1992年に日本コンクリート工学協会(JCI)に設置された「コンクリート用ファスニング技術研究委員会」に協力委員で参加したときからです。参加のきっかけは、博士課程修了後1992年4月から山梨大学で働き始めた時に、研究室の教授であった檜貝勇先生から、中村君は暇そうにしているから委員会の手伝いをしてみないかと、声をかけて頂いたことです。当時は、破壊力学モデルを用いたコンクリートのひび割れ進展解析に注目が集まった時期であり、その解析事例としてあと施工アンカーの引抜き解析は知っていましたが、あと施工アンカーの具体的なことは一切知りませんでした。委員会では、英語の文献のレビューや、文献からデータを拾ってデータベースを作り既往の設計式との比較などを行いました。当時はその委員会だけが東京に行く機会でしたので、委員会を毎回楽しみにして資料の作成を行っていたことが懐かしく思い出されます。今では、仕事に追われ、できるだけ委員会資料づくりの手を抜こうとするのと大違いでした。その後は、日本建築あと施工アンカー協会(JCAA)から土木学会への委託で作成された土木分野初のあと施工アンカーの指針「CL141 コンクリートのあと施工アンカー工法の設計・施工指針(案)」(2014年3月発刊)に幹事長として、その指針の改訂版「CL160 コンクリートのあと施工アンカー工法の設計・施工・維持管理指針(案)」(2022年1月発刊)に委員長として携わりました。特に、CL141では、作成の検討中に笹子トンネルの天井板落下事故が発生したことを受け、標準編の条文に「原則として、吊り下げる付帯設備には使用してはならない」と記載しましたが、指針作成に関わることでの判断と責任の重さを身をもって感じました。またこの間に、JCAAからJCIに委託されて設置された「接着系あと施工アンカーの耐アルカリ性試験方法に関する研究委員会」(2014-2015年)にも委員長として携わりました。JCAAの設立は、最初に紹介したJCIの委員会活動中の1993年ですので、あと施工アンカーと私の関わりもJCAAと同様に約30年となりました。あと施工アンカーやJCAAとの縁が、上に書いたように途切れることなく続いています。インフラの長寿命化が社会的な課題となっていますが、コンクリート構造物を長く使うほど、設備の追加設置や機能向上のための対策を行うために、あと施工アンカーは不可欠です。土木構造物は、環境作用や荷重作用などが厳しい場合が多いので、時間軸での安全性をいっそう高めるために、JCAAを中心に適切な技術や人材の活用を行い続けて頂くことを期待しています。40| 安心・安全を30年~30周年記念誌~名古屋大学教授  中 村   光あと施工アンカーと関わって30年

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