30周年記念誌(30th ANNIVERSARY)
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いたわけです。そこから世界中の耐震基準が変わっていくわけなのですが、現実問題として、基準というのは即座に変えることはできません。どう変えるべきか、まずきちんと研究しなければならない。ですから、その一方で、目の前の壊れてしまった建物をどうやって直すか、あるいは、危なそうな建物をどう補強するか、といったことも考えるわけです。その中で、壊れた建物の壁を打ち直す、そのときの鉄筋はどうやって留めたらよいのか、ということで「あと施工アンカー」という技術を知るところとなりました。鉄筋を溶接したり、コッターをつけたり、他にもいろいろなことをしてみたのですが、どうやらあと施工アンカーが良さそうだ、と。安永 なるほど、そういう出会いだったのですね。岡田 ええ。その頃まだ「あと施工アンカー」という言葉はなくて、商品名で呼んでいましたね。ドライブイットとか、ホールインアンカーとか。接着系はまだありませんでしたが、それでもいろいろな商品があって、それらをちょっと試してみようということで実験していました。機械式のタイプはネジのところで切れてしまうという問題がありましたけれど、ある方が、先を長く、首長にすればいいということを考えて、切れないようにしてね、これで壊れないようになりました。じきにそれが一般的になっちゃったので、今思えば特許でもとっておけば良かったんだけれども(笑)、とにかくそんな時代でした。安永 そうですね。たしか、先か後かというのも「先付け」「後付け」というような言い方でした。岡田 余談ですけれども、「あと施工アンカー」というのは良いネーミングだったと思います。私自身、このネーミングを支持した一人ですけれども、まず、このひらがなと漢字とカタカナの組み合わせが良い。そしてpost-installed-anchorという英語名称の「インストール」の部分を「施工」と訳したところが上手いですよね。誰が考えたのか分からないのですが。安永 言われてみれば、絶妙な意訳ですね。岡田 私は当時、耐震補強の指針などにも関わっておりまして、いざアンカーを使おうと思うと、当然そのアンカーの強度などが問題になってくるわけです。まだ統一された基準はなく、各社それぞれに研究や試験を行ったり外注していたりして、性能も違えば値段も違うという状況でした。そんな中で、やはり使う側も売る側も、何か共通の規準がほしい、というムードになってくるわけです。そういった流れで、建築学会にご相談があり、指東京大学名誉教授、日本建築防災協会 顧問建築構造学・地震防災などの分野で独創的な研究に取り組み、建築耐震工学の発展に寄与。学術分野から政策提言に至るまで幅広く社会に貢献。令和4年秋には、瑞宝中綬章を受章。安心・安全を30年~30周年記念誌~ |安心・安全を30年~30周年記念誌~ |7575岡田 恒男おかだ つねお

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