30周年記念誌(30th ANNIVERSARY)
39/130

金属系拡張アンカーは、見て触って調べて、ハンマーで叩いて、モノを取り付けて揺さぶって大丈夫かどうかを体感し確認できるモノであり、抵抗機構での力の流れが視認できる極めて工学的な人間的なモノである。それだけに多種多様なアンカーが開発されており、その一つ一つ取り上げても興味深いモノである。土木構造物におけるアーチ橋・トラス橋・斜長橋などは、力の流れを視認でき、圧縮力や引張力の流れがよくわかり、その美しさに感動できるものである。鋼材の品質が現在ほどでなく、材料が高価であった頃のエッフェル塔や東京タワー、および薄肉シェル構造は、力の流れを徹底的に追求し、材料の無駄を極力避けたものであるだけに、力の流れを視認でき構造を目指す若者の憧れでもあった。一方、強制的に解析ツールを用いて設計した厚肉シェルは、建築家の美の追求の結果であり、日本一高いビルや日本一高いタワーなどは、構造家の多彩な振動解析の結果であり、材料の高強度化&高品質化と施工の高度化による産物である。従って、建築構造に携わった者としては、力の流れを視認できない現代の多くの建築物は、もはや感動というよりも知性による納得物でしかないと感じるのは歳のせいかもしれない。最初に述べたように、金属拡張アンカーは、人間的なモノだけに、今後も皆さんから愛着をもって気楽に長年にわたって使われていくでしょう。ただ、“どれ位の力に耐えるか”は考えても、“どれ位、変形しても大丈夫か”を考えることは殆ど無いのではないでしょうか。即ち、金属拡張アンカーの設計は、人間的なモノだけに強度だけ知ればよいのかもしれない。また、金属拡張アンカーの施工も人間的なハンマーで叩く限り、数が少ないときはよいのだが、数が多くなるとバラツキが大きくなる。対象としているコンクリートも極めて有機的で均質性が疑わしいものだけに、バラツキはさらに大きくなるのは必然かもしれない。人間的なモノから脱却した新しい金属拡張アンカーの開発は、施工機械・器具の革命的な発明がない限り、至難であり無理であろう。最後に残されたのは、設計&施工の面から、どれ位の安全率を考えるかであり、ここでまた、やや曖昧な人間的な慣習的な“工学的な判断”に委ねるしかないのも、金属拡張アンカーの宿命なのかもしれない。ヒトの人格の判断と同様に、結局は、細部に拘ることなく、最後は、大局的な(総合的な)判断で安全率を決めることで、安全性が穏やかに担保されるのかもしれない。金属拡張アンカーの“あるがまま”を愛しましょう!安心・安全を30年~30周年記念誌~ |37(前)九州工業大学大学院 教授  毛 井 崇 博金属拡張アンカーに対する雑感

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る