貴協会の設立30周年おめでとうございます。30年の長期にわたりあと施工アンカーの普及と品質の向上に寄与されましたことに敬意を表します。設立30周年記念誌への寄稿の依頼を頂きましたので、私とあと施工アンカーの関わりについて触れさせて頂きたいと思います。私が、あと施工アンカーと関わるようになったのは、平成20年度から22年度にかけて実施された建築基準整備促進事業(基整促)からでした。それまでは、耐震改修で補強部材を固定するためのもの、という程度の認識でしたが、これを長期荷重を負担する部材に適用するという目標が設定されたことで、長期荷重(持続的載荷)に対する評価方法(クリープ試験)について検討を行いました。当時は、建築研究所の研究員の立場で、JCAAとの共同研究を行い、主にクリープ試験方法の検討と提案がなされ、一定の成果が得られたと考えています。しかし、平成24年12月に起こった、中央道笹子トンネルの天井板落下事故を契機に、あと施工アンカーの安全性(特に長期的な安全性)について慎重な議論が必要とのことから、あと施工アンカーに対する長期荷重の負担についても、再度の検討を行うこととなりました。その後、5年を経過して平成27年から29年度にかけて、再度の基整促「あと施工アンカーを用いた部材の構造性能確認方法に関する検討」が実施されました。この時は、事業者(芝浦工業大学・東京ソイルリサーチ)として検討を行い、JCAAの方々をはじめ多くの関係者の協力を得ながら、クリープ試験の方法のみならず、アンカー単体の性能評価方法、構造部材性能の確認方法および設計手法、アンカー施工の品質管理方法など、あと施工アンカーに長期荷重に負担させるための一連の課題について検討しました。報告書をとりまとめ、その内容を踏まえて、令和4年3月に平成13年国交告第1024号が改正され、日本建築防災協会より「接着系あと施工アンカー強度指定申請ガイドライン」が刊行されたことにより、あと施工アンカーを長期荷重を負担する部材へ適用するための制度的枠組みが整備されました。検討の始まりから数えると、約15年が経過しており、JCAAの歴史の半分をかけて長期荷重が負担できることになったといえます。笹子トンネルの事故により、一時は頓挫しかけた検討であったものの、このことが却って一連の課題を網羅して再検討する契機となり、より安全性の高い製品と評価の枠組みが構築されたと考えています。安全と安心を得ることは一筋縄ではいかず、長期荷重に対しては、ようやく端緒についたところであります。今後、真に長期に支えられるあと施工アンカーへと発展すること、貴協会の益々の発展を祈念致します。安心・安全を30年~30周年記念誌~ |39芝浦工業大学教授 濱 崎 仁真に長期に使えるアンカーとするために
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