この度は、一般社団法人日本建設あと施工アンカー協会の設立30周年にあたり、心よりお祝い申し上げます。筆者があと施工アンカーの研究を本格的に始めたのは土木学会コンクリートライブラリー141を制定する委員会に入れていただいたのがきっかけです。当時は、アンカーの種類や特徴の理解もままならず、まさに指針完成までの進捗にあわせて学ばせていただいたのを憶えています。よくよく考えてみると、1990年代に、コンクリートの破壊力学の分野において、コンクリートのモード I破壊(引張破壊)が卓越する先付けのアンカーの引抜き試験ならびに数値解析に関する研究が世界的にも精力的に行われました。このことは、コンクリートの破壊の基本問題としてアンカーが取り上げられていたことを意味します。数値解析のコストを下げるために、2次元モデルの実験が行われたり、境界条件を工夫したりと、日本国内においても様々な実験・解析が行われました。筆者にとっても、コンクリートのひび割れの進展を含む破壊プロセスと、構造システムの破壊プロセスとの関係を考える非常に良い機会となりました。このように、コンクリートの破壊プロセスに大きく影響を受けるアンカー(あと施工アンカーを含む)にも関わらず、コンクリートの圧縮強度が分かれば設計できると考えられている部分が少なからずある点が気になります。ご存じのとおり、コンクリートの圧縮強度はコンクリートの破壊プロセスのある1点の情報にしか過ぎません。その点だけをもって設計するのではなく、ひび割れの進展や耐力点以降の軟化領域(ポストピーク)の挙動に着目した設計が、あと施工アンカーシステムの破壊の制御にとって大切なのではないでしょうか。そもそも絶対に壊れないのではなく、「いつ」、「どこを」、「どのように」壊すかという視点での設計が大切になってくると思います。これからも微力ながらこのような視点で研究を進め、土木分野においてのあと施工アンカーのあり方を考えていきたいと思っている次第です。最後になりましたが、貴協会の益々のご発展を祈念いたします。安心・安全を30年~30周年記念誌~ |41岐阜大学教授 國 枝 稔あと施工アンカーを「うまく壊す」ために
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